大和でも、ロナウドでも、まして幼馴染である大地でもなく、憂う者の手を取った金曜日の夜。二十三時を回れば、冬に向かう空は真っ暗だ。幸い、都市の明かりがまったくない今、星の明かりが美しく、視界には困らない。しかし季節柄、その辺のベンチで寝るには寒いし、なによりも野良悪魔の存在が気になって休めそうもない。
かといって、今まで世話になったどこのジプス支局も、各勢力が使用しているため、憂う者の手を取った身としては避けたいところだ。人様の家や店に勝手に上がりこむのは、どうしても彼の――真生の倫理観にそぐわず却下である。他にどこか一人になれて、ついでに屋根なんかがあって風雨に耐えられそうな、無の侵食の心配も少なそうな、そんな都合のいい場所などあっただろうか。
― 静かに更ける夜 ― なつみ さま
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俺が彼と初めて出会ったのは、小学校二年の修学旅行の時だった。
日本のカラスが世界一凶暴で気まぐれなことを思い知らされたのもその時だ。頭に強烈な衝撃を受け、俺は一時的な混乱に陥った。その後のダイチの話によると、一羽のカラスが俺の頭を直撃し、その挙句、そこに載せた帽子を奪って逃げたというのだ。まさにヒットアンドアウェイ。カラスというのは、侮っちゃいけない生き物だった。
まだ微かに痛む頭を手で押さえ、俺は呼び止めるダイチの声を無視し、無意味に帽子の行方を探し始めた。翼の持つカラスがもうとっくにどこか手の届かない場所に飛んで行ったと知りながらも、俺はそんなカラスを追い始めた。たぶん心のどこかで、もしかしたらそのカラスが気まぐれに帽子を近くに落としてくれたんじゃないかという期待があったかも。
― 星巡り、十年間。 ― ヴァイスニャン さま
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ついと目の前に差し出されたそれは、フリルと赤いリボンと可愛らしいピンクとに彩られたひとつの包みだった。例えるならば、バレンタインなんかの―所謂女子が主役のイベントのときに売り場で見かけるような、女の子同士で贈り会うチョコレートのラッピングのような―とでも言うべきの。
けれど、目の前の相手が、それが思いっきり似合わないというか、…そういう風習を知っているかどうかも解らないような奴だったから、俺もそれを差し出されたときにきょとんとしてしまい―多分、え、とか何とか言ったと思うのだが―固まってしまった。固まったまま目だけを動かして相手を見ると、そいつはただふわりと笑って頷いた。
― あなたへのおくりもの ― 杜亜希
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